「ビューティフルボーイ」 美しき少年と薬物

今週のお題「読書感想文」

 先日読んだ本、ビューティフルボーイについて感想を書きたいと思います。

ネタバレありなので、ご了承ください。


 

 

あらすじ

 ジャーナリストのデヴィッドは息子のニックと妻カレンと暮らしている。しかしニックの母親ヴィッキとは離婚しており、ニックは長期休みのたびに母親の元で過ごすという行き来を繰り返していた。

 そんな中、息子ニックが薬物を使用していることに気が付く。この本は、全てデヴィッドの語りで描かれたニックと彼を取り巻く人物の依存症との戦いの日々の実話である。

 

アメリカの深刻な薬物問題

 アメリカでの薬物の問題は深刻である。2017年には6万4千人が薬物の過剰摂取で亡くなった。この本でも、中学、高校、特に大学という場で身近に薬物が存在していた。私立の学校に通っても、頭のいい学校に通ったとしても、薬物の誘惑は変わらずあるのがアメリカの現実なのかもしれない。正直、ずっと日本の私立で過ごしてきた自分には想像がつかない世界だ。

 精神的ストレスから薬物に手を出し、依存にまで陥り、さらに精神がおかしくなる。そんな悪循環がわかっていながら、一瞬だけ与えられる快楽に誘惑される。そんな薬物は想像がつかないと同時に恐ろしいものだ。

 ニックの薬物へのきっかけは、マリファナから始まる。ニックに限らず、初めはマリファナが多いという。そこから、次に薬へと使用範囲が広くなっていくのだ。ニックがはじめにマリファナに手を出したのは12歳だ。

 12歳は中学1年生の年齢である。その年齢でマリファナに手を出したくなるほどの苦痛があるのだろうか。しかし、さらに驚いたのはその時の学校の先生の言葉である。父親のデヴィッドが12歳で手を出したことに驚いている中「その年頃に手を出すものです」と、常識のように答えたことだ。アメリカの教育現場では当たり前の光景なのかもしれない。

 父親デヴィッドがそうであったように、マリファナや薬物にて手を出しても依存せずにやめられる人も多くいる。しかし、ニックはそうではなかった。薬物の闇は手を出さなければわからない。だがその闇は一生知らなくていい闇だと思った。

 

親という不完全で不思議な存在

 しかし、この本からは薬物の情報もたくさんあるが、読者が感じるのはという存在についてではないだろうか。

 マリファナだけに止まらず、覚醒剤やコカイン、メタンフェタミンと次々と手を出し、変わっていくニック。一緒にサーフィンをしたり、寝る前に15分ごとに部屋に確認しに来てと頼んでいた小さい頃のニックは、薬とともに姿を消す。

 しかし、薬物に手を出したあと、ニックも正気に戻ると後悔に苛まれる。

 そんな息子を何度もセラピーに通わせ、何人もの医者の元へ行かせる。薬物で、普段とは違い凶暴になる息子。セラピーで立ち直り、いつもの兄弟思いで想像力あふれるニックに戻ったと思ったのも束の間、また薬物の誘惑に取り憑かれる息子。

 「もう、支えきれない」と思っても、捨てることができないのが親なのだと痛感した。医者や、セラピーの人間も結局は他人。「もう、知らない」ということができる。でも、親は無理だ。帰ってこない息子が、どこかで死んでいるのかもしれない、いつ病院に運ばれるかわからない(実際、ニックは運ばれた)。そんな恐怖と四六時中戦っている。

 私は、大学生だがこの本を読んで親のことが少し理解できたと思う。というより、今まで親に対して思っていた印象が変わった。

 私は両親とは仲はいいが、私は私だ。親とは家族だし特別な絆はあるが、別の人間なのだ。と思っていた。しかし、親は私たち子供が親に対して思っている以上の絆を子供に感じている。別の人間だとは割り切れない感情を持っている。

 そんなことに気づけた。呆れて、突き放したくなるような子供でも、なぜか放っておけない。もちろん、例外の家族はいるだろうが、beautiful boy の家族はそんな存在だ。

 義理の母親、カレンもニックを見捨てずに励まし続けた。また、デヴィッドは自分の過去の薬物経験がニックに影響したのではと思っている。それは無いとは言えないだろう。デヴィッドとニックの母親の離婚もニックの心に少なからず傷をつけいていた。ニックが薬物に走った理由は、依存症になってしまった理由は、もしかしたら親が原因なのかもしれない。

 子育てに正解はないし、親が原因で悪化するのかもしれない、でも親の愛情は子の持つ愛情より上なのも事実で、家族、親、不思議な絆を考えるきっかけとなった。

 

映画

 この本が、ブラット・ピット制作で映画化された。主演は、私が個人的に今世界で一番美しいと思っている俳優、ティモシー・シャラメである。

 美しい少年が薬物へと落ちていく様がリアルに描かれる。彼の腕にある注射痕なども避けられることなく描かれ、痛々しさも感じる。正直、映画では伝わり切らないところも多くあるため、本を読んで欲しいが、映像であるからこそのリアルさを映画では体験できる。

 

 映画では最後まで描かれないが、現在ニックは薬物を完全に断ち、結婚して脚本家として活動している。近年話題のドラマ「13の理由」の脚本も書いた。ニックが書いたと、知ってあの衝撃ドラマが誕生した理由が腑に落ちた。

 後書きでデヴィッドが書いていたように、あの頃のニックを思えば今まで生きているのは奇跡だ。

 

 映画はAmazonプライムで見れるので、会員の方は是非見て欲しい。